相続税の申告では、添付書類の一つとして印鑑証明書の提出を求められることがあります。
印鑑証明書は、遺産分割協議書に押された印鑑が相続人ご本人のものであることを確認するために使われますが、手続きによっては「発行から〇か月以内」といった期限内のものであることが条件になるケースがあります。
では、相続税申告に添付する印鑑証明書には、どのような有効期限(提出期限の目安)があるのでしょうか。
この記事では、相続税申告での印鑑証明書の扱いや、期限が求められる場面をわかりやすく整理して解説します。あわせて、印鑑証明書がそもそも何を証明する書類なのかも触れますので、手続きを進める前の確認にお役立てください。
相続税申告で添付する印鑑証明書に有効期限はある?

結論から言うと、相続税申告に提出する印鑑証明書には、有効期限の決まりはありません。
○印鑑証明書そのものに「期限」は設定されていない
まず前提として、印鑑証明書は発行日において、市区町村に登録されている実印が本人のものだと確認できる書類です。
そのため、書類自体が時間の経過で無効になるわけではなく、法律上の有効期限は設けられていません。
ただし、実印をあとから変更する方もいます。
そこで一部の手続きでは、証明内容の信頼性を保つ目的で、「発行から3か月以内」「6か月以内」など、一定期間内に発行された印鑑証明書を求められるケースがあります。
○相続税申告では「発行から何か月以内」といった制限はない
相続税申告に関しては、印鑑証明書に発行日の新しさが求められることは基本的にありません。
そのため、取得してから年数が経っている印鑑証明書であっても、相続税申告の添付書類として利用できると考えてよいでしょう。
○他の相続手続きも見据えると、早めに新しいものを用意しておくのが安心
相続では、相続税の申告・納税だけでなく、次のように複数の手続きが並行して発生します。
・不動産の相続登記
・預貯金の解約・名義変更
・自動車など各種名義変更 など
相続税申告は「相続開始から10か月以内」と期限が決まっているため、相続手続き全体の流れとしては後半に行うことが多いのが実情です。
そのため、早い段階で必要になる手続きに合わせて、新しめの印鑑証明書を取得しておくとスムーズです。
特に期限が短めに設定されやすいのが、銀行口座の相続手続きや自動車の名義変更で、発行から3か月〜6か月以内の提出を求められることがあります。
これらに間に合うタイミングで印鑑証明書を準備しておけば、相続税申告でも同じものを使えて効率的です。
相続税申告に添付する印鑑証明書は「原本」が必要

相続税申告で提出する印鑑証明書は、原本で用意する必要があります。
コピーでは受け付けられない点に注意しましょう。
また、遺産分割協議書に署名・押印した相続人全員について、印鑑証明書が必要となるため、相続人の人数分を原本で提出することになります。
○印鑑証明書以外の添付書類はコピーで足りることが多い
相続税の申告では、印鑑証明書のほかにも戸籍謄本(戸籍全部事項証明書)など、多くの書類を添付します。
ただし、これらの書類については、一般的に写し(コピー)で提出できるものが多いです。
相続税申告で提出した印鑑証明書は「原本還付」を利用できる

相続税申告では、印鑑証明書を原本で提出するのが原則です。
ただ、印鑑証明書は相続手続きのあちこちで必要になるため、手続きごとに原本を提出していると、そのたびに取得し直すことになり、負担が大きくなってしまいます。
そこで活用したいのが、提出した原本を返してもらえる原本還付(げんぽんかんぷ)という制度です。
相続税申告でも原本還付は利用できるため、まだ手続きが残っている場合は、印鑑証明書についても原本還付を申請しておくと安心です。
○原本還付の申請方法(印鑑証明書の場合)
原本を返してもらうには、次の準備をして提出します。
・提出する印鑑証明書のコピーを取る
・そのコピーの余白に、次の文言を記入する
「原本還付 原本に相違ありません。住所 氏名 (印)」
・原本とコピーをあわせて提出する
この手続きをしておけば、提出後に原本の返却を受けられます。
○相続税申告より先に相続登記をする場合も原本還付が使える
相続税申告の前に、不動産の相続登記を先に進めるケースも多いです。
相続登記でも印鑑証明書の提出が必要になることがありますが、相続登記の手続きでも原本還付が可能です。
そのため、登記で提出した印鑑証明書は返してもらい、返却された原本をそのまま相続税申告の添付書類として再利用できます。
○銀行・金融機関は「コピーを取って原本を返す」対応が多い
預貯金の相続手続きで銀行に印鑑証明書を提出した場合、金融機関側でコピーを保管し、原本は返却してくれる対応をしていることが多いです。
返却された印鑑証明書に特別な押印などがされるケースは一般的に少なく、相続登記や相続税申告など、他の手続きにも使える可能性があります。
相続手続きごとの印鑑証明書提出期限の目安
相続では、手続きごとに「発行から〇か月以内の印鑑証明書」といった条件が設けられていることがあります。
期限が短い手続きから先に進め、必要に応じて原本還付も活用すると、印鑑証明書の取り直しを減らしやすくなります。
| 相続手続き⇩ | 提出先 ⇩ | 印鑑証明書の期限(目安)⇩ |
| 相続税の申告 | 税務署 | 期限の指定なし |
| 相続登記 | 法務局 | 発行から3か月以内 |
| 預貯金の相続手続き | 金融機関 | 発行から3〜6か月以内 |
| 株式・証券口座の相続手続き | 証券会社 | 発行から3〜6か月以内 |
| 自動車の名義変更 | 運輸支局(運輸局) | 発行から3か月以内 |
| 死亡保険金の請求 | 保険会社 | 発行から3〜6か月以内 |
上記の期間内であっても、被相続人が亡くなる前に取得した印鑑証明書については、手続きによっては受け付けてもらえないことがあります。
提出先ごとに取扱いが異なるため、実際に手続きを進める前に、金融機関や保険会社などへ確認しておくと安心です。
そもそも印鑑証明書とは

印鑑証明書(印鑑登録証明書)とは、市区町村に登録している実印について、
「その印影(いんえい:印鑑を押した形)」と、登録者の 住所・氏名・生年月日・性別などを記載した公的な書類です。
実印は、大きな契約や重要な手続きで使われるため、第三者が勝手に本人名義で契約してしまうことを防ぐ目的で、あらかじめ自治体に登録する仕組みがあります。これが「印鑑登録制度」です。
そして、その印鑑登録の内容をもとに、
「この実印は確かにこの人のものです」と証明するのが、印鑑証明書になります。
なお、印鑑証明書は省略して 印鑑証明、あるいは同じ意味で 印鑑証明書 と呼ばれることもあります。
○印鑑証明書が求められるのはどんなとき?
印鑑証明書は、書類に押されている印鑑が 本人の実印であること を示すために提出を求められます。
たとえば、不動産の売買にともなう所有権移転登記など、本人確認が厳格に必要な手続きで使われることが多いです。
○相続税申告で印鑑証明書が必要になるケース
相続税申告では、遺産分割協議が成立している場合、その内容を示すために 遺産分割協議書 を添付することがあります。
遺産分割協議書は、相続人全員が 実印で署名・押印するのが一般的なため、実印であることを確認する目的で 印鑑証明書の添付が必要になります。
一方で、遺産分割協議がまとまらず、遺産分割調停や遺産分割審判によって分け方が決まった場合は、調停調書や審判書を添付して申告を行うため、通常は印鑑証明書の添付は求められません。
○相続人に海外在住の方がいる場合
印鑑登録は日本の自治体で行う制度です。
そのため、海外在住で日本に住所がない方は、原則として印鑑登録ができず、印鑑証明書も発行できません。
この場合は、印鑑証明書の代わりとして サイン証明書(署名証明) を添付します。
サイン証明書は、海外にある 日本大使館・領事館 で発行してもらうのが一般的です。
まとめ:印鑑証明書は「なるべく新しいもの」を用意しておくと安心
今回は、相続税申告で添付する印鑑証明書の有効期限について整理しました。
相続税申告では、遺産分割協議書に押された実印が相続人ご本人のものかを確認する目的で印鑑証明書を添付しますが、相続税申告そのものには「発行から〇か月以内」といった期限の指定は基本的にありません。
ただし、相続の手続きは相続税申告だけでは終わりません。
自動車の名義変更や預貯金の相続手続きなどでは、発行から3か月以内といった条件が付くこともあります。
そのため、後から取り直す手間を減らす意味でも、相続手続き全体を見据えて、できるだけ直近で取得した印鑑証明書を準備しておくのが無難です。